人が亡くなるというのは、誰にとっても慌てふためくもの。
葬儀の準備や各種手続きなどてんてこ舞いですが、そんなさなか、とんでもない知らせが届くことがあります。
「亡くなった人がカードローンの契約者で、しかもまだ借金が残っている」という知らせです。
果たしてこの場合、残された人はどのような対応をとればいいのでしょうか。
今回は、おまとめローンやカードローンを契約した方が死亡した場合の対応について紹介していきます。
おまとめローンなどは特に長期的に返済していくものなので、途中でなくなってしまう場合もあります。
そういった場合に残された者はどうすれば良いのか、「もしも」の時に備えておいてください。
■プラスの遺産だけでなくマイナスの遺産も相続しなければならない
テレビドラマなどを見ていると、資産家がなくなった時にその遺産をめぐって一族で大もめになることがあります。
「うちはそんなに財産がないから遺産争いなんて関係ない」と思っていませんか。
一般的に遺産と聞くと、家や土地、株式や債券、預貯金や宝石など、お金になる遺産ばかりに目が行ってしまいます。
しかし実際には、そのようなプラスの遺産以外にも、借金や連帯保証人と言ったマイナスの遺産も存在するのです。
テレビドラマで資産家が亡くなるとき、遺言書を残してくれている場合があります。
遺言書が残されていれば、遺産の相続についてはそれに従えばいいので楽ですが、えてしてマイナスの遺産については触れられていません。
遺言書が残されていなければ、プラスとマイナスの遺産、どちらをどう相続するかでさらに大もめになることは必至ですね。
「プラスの遺産だけ相続してマイナスの遺産は相続しない」と主張してくる人もいるかもしれませんが、それはできません。
遺産はプラスもマイナスもひっくるめて遺産であり、プラスの遺産だけを相続してマイナスの遺産は放棄する、そんな都合のよい相続はできないのです。
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■住宅ローンは遺族が借金を支払わなくてもよい
では、もしカードローンの借金を相続した場合、遺族が支払い続けなければならないのでしょうか。
結論から申し上げますと、払う義務が生じてきます。
ちなみに、同じ借金であっても住宅ローンについては、契約者が死亡したときに残された遺族が残債を支払う義務はほとんどありません。
これは、住宅ローンが「団体信用生命保険」に加入しているからです。
団体信用生命保険とは、ローン契約者が死亡したときにその遺族の負担を減らすため、保険からローンの残債を支払うと言った制度です。
この保険の目的は、お金を貸した業者が損をしない目的ももちろんあるのですが、それよりも遺族に金銭負担を求めない目的の方が強いでしょう。
特に、住宅ローンの契約者は一家の大黒柱であることが多く、それを失った悲しみに加えて、収入減の喪失という現実的な困難にも直面します。
遺族にさらなる苦痛を与えないためにも、団体信用生命保険がセーフティーネットとなっているのです。
住宅ローンの契約をする際には、団体信用生命保険への加入がほぼ義務となっております。
銀行など民間の金融機関が提供する住宅ローンは、団体信用生命保険への加入が義務となっていますが、住宅金融支援機構が提供する住宅ローン「フラット35」については、団体信用生命保険への加入は任意となっているため、「ほぼ」という言い方をしています。
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■カードローンは遺族が支払い続けなければならない
一方のカードローンには、団体信用生命保険付きのものは皆無です。
かつては結構あったのですが、問題が噴出した結果、団体信用生命保険付きのカードローンは相次いで姿を消していったのです。
住宅ローンの団体信用生命保険は遺族の救済が主たる目的でしたが、かつてあったカードローンの団体信用生命保険は、業者の貸し倒れを防ぐ目的が強かったのです。
借金が返済できないカードローンの契約に対して、一部の貸金業者が「死んででもお金を作れ」と脅して、その結果契約者が自殺をしてしまい、そのお金を貸金業者が返済に充てさせたということがありました。
命を担保にして返済させるようなことがあったため、現在ではカードローンには団体信用生命保険がほとんどついていません。
一部カードローンに団体信用生命保険がついているものがありますが、それはもちろん遺族の救済が目的です。
■カードローンの借金は相続放棄できる
プラスの遺産とマイナスの遺産を天秤にかけて、マイナスの遺産が多いようでしたら相続を放棄するという選択肢もあります。
相続が発生することを知ってから3ヶ月以内に、管轄する家庭裁判所に所定の手続きをすれば、相続を放棄できます。
自分で勝手に「相続を放棄します」と宣言したところで、これは何の効力もありません。
ただし、プラスの遺産とマイナスの遺産は不可分ですので、マイナスの遺産を相続放棄すれば、プラスの遺産も相続放棄することとなります。
■順位の高い→順位の低い相続人に相続権が移る
自分が相続放棄すればこれでカードローンの借金が消えると思ったあなた、それは間違いです。
自分以外にも相続人がいる場合、その人にカードローンの借金の相続権が移るのですから。
相続権の順位としては、以下のようになります。
①配偶者
②子供
③親
④兄弟姉妹
この順番で相続が発生して、順位の高い人が相続を放棄すると、その次の順位の人に相続権が移ります。
ちなみに、おじさんおばさんやいとこについては、法定相続の権利はありませんので、そこまでカードローンの借金の相続が及ぶことも基本的にはありません。
もちろん、遺言書で特別に記載されている場合には、話が別ですが。
相続の対象となる人がすべて相続を放棄したとなれば、カードローンの借金は支払われることはありません。
■残高がプラスの場合のみ相続する「限定承認」
民法920条では、財産を相続することを「単純相続」と呼んでいます。
しかし、借金がいくらあるか分からない状態で単純相続を選択し、思いのほか借金が多くて相続しなければよかった、と後悔する人もいます。
かといって、借金の状況を見極めているとあっという間に3ヶ月が経過します。
相続の事実を知ってから3ヶ月経過すると、自動的に単純相続となってしまうので、悠長なことも言っていられません。
この3ヶ月を「熟慮期間」と呼びますが、3ヶ月では足りないという時には、家庭裁判所に申述すればその期間を延長することも可能です。
相続にはもう一つ「限定承認」という相続方法があります。
これは、相続によって得たプラスの遺産を限度として、それ以上のマイナスの遺産は支払わなくてもよいという制度です。
例えば、プラスの遺産が1000万円でカードローンなどマイナスの遺産が1500万円だった場合、マイナスの遺産の返済は1000万円行なえばよく、残りの500万円のマイナスの遺産は支払う必要がありません。
限度は「相続によって得たプラスの遺産」であり、相続した人が自分の財産を持ち出してまで返済する必要はありません。
マイナスの遺産がどの程度あるのか分からないという場合には、有効な方法です。
ただし、限定承認は相続人全員が共同で家庭裁判所に申述をしなければなりません。
相続人の誰か一人でも単純相続をしてしまうと、限定承認の申述を行なうことはできません。
相続放棄の時と同様に、限定承認も相続を知ってから3ヶ月間が有効期限となります。
■相続したあとで知った場合は?
面倒なのは、相続を終えてから「借金」があることがわかった場合です。
残念ながら、「後出しジャンケン」のような状態でも一度相続してしまったら放棄はできません。
相続するときは、必ず預金通帳のチェックなどを行ってください。
消費者金融などが記録に残っていたら要注意ですよ。
返済が遅れていれば催促状が届いたりもあると思うので、そういった兆候を見逃さないように、余計な負債は背負わないように注意しましょう。
もし相続したあとで多額の借金がみつかり、もう逃げられないという状況になった場合は、「利息の軽減」を提案しましょう。
交渉次第なので、必ずできるわけではありませんが、少しでも返済額を少なくする努力はするべきです。
違う人の借金なわけですから。
配偶者や子供などは対象者がなくなればある程度相続のことを知ることができますが、遺言書でいきなり相続の事実を知らされた人にとっては、まさに寝耳に水です。
相続の対象となった人には、プラスの遺産だけでなくマイナスの遺産のことも教えてあげましょう。
マイナスの遺産についてはくれぐれも注意してくださいね。
家庭裁判所への申述は、司法書士に依頼をすると楽ですよ。